広瀬康夫・伊東恵司・山脇卓也 「グリークラブアルバム CLASSIC」
2016-08-31
男声合唱をする人なら誰でも知っているグリークラブアルバム。福永陽一郎先生と北村協一先生が1959年に編集・出版した名曲集であり,戦前から唄われている曲も集めた,いわば日本における男声合唱の原点とでも言うべき曲集である。実を言えば,趣味で日本の男声合唱を研究するものとして,私は「グリークラブアルバムの研究(仮題)」なる一連の記事をこのブログ向けに準備しているところである。
研究する上では大変面白いグリークラブアルバム(後にでた2と3も含めて)であるけれど,収録曲が古びているのは事実。そのように感じていたところ,丁度,男声合唱界をリードする三先生により「グリークラブアルバム CLASSIC」がでた。どうやら,この三人の先生による,時流にあった新しいグリークラブアルバムを出す企画が進行しているようで,前書きにもそれらしきことが書かれている。そのためには「まずは既刊の3冊から真に定番と言える作品を選び抜いて1冊にまとめることが,先人への恩返しでもあり,絶対に必要なことであると考えました」とあり,誠にその通りであると思う。
曲はグリークラブアルバムの例にならってカテゴリー順に並べられている。つまり,大まかにドイツ曲,各国の曲,日本の名曲,日本民謡,日本の歌謡曲の編曲もの,と並べられている。旧版では明記されていなかった編曲者名がクレジットされたり,「遙かな友に」のように楽譜が変更されているものもある。詳細についてはこれからみていかないといけないけれど,目についたことを幾つか。
野ばら(Heidenröslein)は旧版では,よく知られたウエルナーの曲とメンデルスゾーン曲とされる2曲が掲載されていたが,メンデルスゾーン作とされる方が採用された。別記事でも書いたけど(注1),この曲が本当にメンデルスゾーン(Felix Mendelssohn)の作かは分かっていない。あえて採用した理由はなんだろうか。
1) http://ameblo.jp/tonotono-57-oboegaki/entry-12164960849.html
絶版状態だったグリークラブアルバム2から(注2),かなりの曲が採用されている。今後もでないとすると,良く歌われる曲はかなりこちらでカバーできそう。具体的には「Gaudeamus」「Heilig」「Wigenlied」「Die Nacht」「夕焼けこやけ」「アカシアの径」「最上川舟唄」「そうらん節」「雨」「夜のうた」「見上げてごらん夜の星を」というところ。
最近,男声合唱団の演奏会で合同やアンコールで日本民謡が歌われるとき,ほとんど「斎太郎節」で,「最上川舟唄」が唄われないのを淋しく思っていた。これを機会に,もっと唄われるようになれば嬉しい。あと「そうらん節」は,清水脩の男声版ではなく,混声版から福永陽一郎先生が編曲した版が採用されている。グリークラブアルバム以来の「伝統」だけど,こちらの方が広く唄われているということか。
2) 多田武彦先生が「絶曲」している「年の別れ」が収録されているからとか,福永陽一郎編曲とされているRide the ChariotがWilliam Smithの編曲と同じだからとか,理由は取りざたされているが不明。古書価格は高騰している。
「グリークラブアルバムからの伝統」と言えば,多田武彦先生の「柳河」も,音楽之友社版ではなく,旧版の楽譜が残った。テンポ指定の有無や,指示における漢字の使い方,2回目の「ノスカイヤー」へのpoco rit指示の有無などが異なっている。最初の作品集「多田武彦合唱曲集」が音楽之友社から発行されたのは昭和34年6月20日,グリークラブアルバムの初版は昭和34年4月5日。つまり譜面が出版されたのはグリークラブアルバムの方が古く,恐らく福永先生が所有していた楽譜が印刷に使われたのだろう(注3)。今回は修正されているかと思ったが,古い形が残った。
3) 福永先生は「私はこの第1曲を,出版されるずっと前から,自分のレパートリーに加えていた」とされている。多田先生が昭和29年の合唱コンクールに応募された形かもしれない。
(2016/11/3補足) 「柳河風俗詩」については,1957年(昭和32年)にでた「合唱文庫」が最初の出版。これは表記が「グリークラブアルバム」と「多田武彦男声合唱曲集」の中間に位置する。推敲の跡が伺えて興味深い。
楽譜の変更が最も目立つのは,磯部俶先生の「遙かな友に」。グリークラブアルバムでは,なぜか林雄一郎先生が編曲した楽譜が載っており,カワイ楽譜の古い版では「遙かなる友に」とタイトルまで違っていた。磯部先生は,このことをかなり怒っておられたとの話もあり,今回は磯部先生の編曲(作曲)が採用されたのは妥当なところ。磯部先生自身の作曲にも何版かあるらしく,山脇先生が採用したのはB-dur版。私はカワイ合唱名曲選に載っていたA-dur版が正式かと思っていたけど,そうでもないらしい。A-dur 版ではバスの最低音がDになるので半音高い方がましというか。
次は,三人の先生による「グリークラブアルバム MODERN」か「グリークラブアルバム 21st CENTURY」か「グリークラブアルバム NEO」か。どんな曲が選ばれるか楽しみだ(注4)。
4) 私は最近の曲はよく知らないので,収録曲の予想は控える。
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