120周年記念 88th関西学院グリークラブリサイタル
2020年2月23日(日)兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホールで開催された88th関西学院グリークラブリサイタルを聴いてきた。
SS席で聴きたかったのだけど,売出しから半日で完売という盛況ぶりで購入できず。これで2年連続で,関西学院グリークラブ(以下,関学グリー)にとって結構なことですね。次はSS席を取るぞと誓いつつ。
A Song for Kwanseiから始まり70人ぐらいの演奏。ベースが例年より厚く鳴ってる気がする。座席の関係かもしれないけど,私には嬉しいサウンド。
今年は全ステージ無伴奏だったので大変だったと思うけど,途中の音取りも最低限に抑えられ,それで破綻しないのがすごい。
Ⅰ 無伴奏男声合唱組曲「いつからか野に立って」
作詩/高見順 作曲/木下牧子 指揮/本山秀毅 (客演)
5年目にして本山先生が関学グリーで日本の曲を振られるのを初めて聴いた。日本語の曲でもやはり,どんな音楽を作られたいかが指揮を客席から見ていて分かるぐらいだから,ステージではさぞ情報量が多いのでしょう。人数が多くしかもハーモニーが安定しており,不安のない日本語表現と鳴る音に一体感があった。本山先生の動きと演奏に違和感を覚えることもなく(笑),1ステージ目からすごい。
過去のステージで,ロマン派や宗教曲などは指揮者の思いが伝わっていないのではと思う演奏もあったけど(グリーメンがとまどってる),詩と音楽に共感できるからでしょうか。
Ⅱ 無伴奏合唱組曲「秋の瞳」
作詩/八木重吉 作曲/松下耕 指揮/石川龍太
この曲は,なにわコラリアーズのCDがあったので彼らの委嘱かと思ったけど,調べてみたら「2008年に男声合唱団「フロイデ」にて初演された 」とありました。
面白く聴いていたのですが,前ステージと合わせると比較的新しく作曲された無伴奏の日本語曲が13曲続くため,聴いてる側として中だるみしてしまった。
第4曲「はらへたまつてゆく かなしみ」の解説で「八木重吉のかなしみは下の方へと向かっていく力が働いているのに対し,第1ステージで演奏する高見順の『虹』では「昇天」という言葉を使い上の方へと押し上げている。両者ともかなしみを無機物に投影しているという共通点がありながらもベクトルの向きは違っている」とあり,このあたりを歌い分けて表現されたかったのかもしれない。が,申し訳ないけど,こちらに聴ける耳がありませんでした。
Ⅲ 「ボヘミアン・ラプソディ」
作詞・作曲/Queen 指揮/広瀬康夫
広瀬先生がMessageで「4年生でオンステしたリサイタルが第48回でした」と40年前のことを述べておられますが,その時のLPとパンフレットを持ってます(笑)。宮島将郎氏の編曲されたビートルズの曲を6曲,「BEATLES NUMBERSより」として指揮されました(初演は7曲で「Seven Beatles Number」だったが,なぜかEleanor Rigbyがなかった)。
つまり,広瀬先生と私は同年代,だからたぶんQueenをリアルタイムで聴いておられたはず。私はボヘミアン・ラプソディを聴いていたため,初代The King's SingersのLP ”キングズ・シンガーズII Contemporary Collection”の1曲目TIME PIECE (Paul Patterson作曲)を聴いたときに「クイーンみたいやなあ」と思ったぐらい*。当時はセブンスやナインス系和音を使う合唱曲は珍しく,京都大学グリークラブが演奏した男声合唱組曲「さすらい」(玉木宏樹作曲)などは斬新に響いた。
ということでこのステージ,Queenの魅力が思い切り弾けて楽しめた。いつもより動きが控えめと思っていたら,終曲のBohemian Rhapsodyまで溜めておられたらしい。妙な言い方になるけど,ロックの曲でも一糸乱れず合唱として仕上げることができる。時にある付け焼き刃のダンスと合唱でない。北村先生の頃から動きのあるステージを入れておられたけど,120年の伝統ある合唱団が「伝統的な合唱」に閉じこもらない姿勢はさすが。
ステージアンコールはDon't Stop Me Now。編曲はJay Giallombardo。
* この曲とLPは指揮者の清水敬一先生も「私が影響を受けた11のディスク」にあげておられ,なんと早稲田大学コール・フリューゲルの学生指揮者だった時に演奏されたとか。
CD化されていないけど,ここで聴ける(https://www.youtube.com/watch?v=rXcY5qwxsdc&t=21s)
Ⅳ MESSE SOLENNELLE ~新月会・高等部グリークラブ合同ステージ~
作曲/Albert Duhaupas 指揮/広瀬康夫
今年はこの曲を3度聴くことができた。東西四大学合唱演奏会(関学グリー単独),関西学院グリークラブ120周年記念フェスティバル(新月会,高等部グリーと合同),そして今回。120周年はKyrie, Gloria, Agnus Deiだったので,このメンバーでの完全版。160-170名程度の大合唱で,ミサへの言葉として適当かわからないけど迫力満点。Gloriaの最後は倍音が実音のように強く鳴ってました。10分ぐらい要するCredoは難曲だけど,聴きどころ(歌いどころとも言う)満載。O Salutarisは本当に美しかった。
自宅に80周年のLP(新月会と合同)と2000年頃録音のCDがあるけれど,これも買おうかなあ。。
Ⅴ 「鐘の音を聴け」 -男声合唱のための幻想曲-
作詩/Edgar A. Poe 作曲/新実徳英 指揮/石川龍太
去年の感想で「もう一度聴きたい曲」の一つにこの曲を上げたのだけれど,こんなに早く聴けて嬉しい。そして,来てよかった,本日白眉の演奏でした。10人ほど絞った60名ほどでの演奏だったけど,失礼ながら学生指揮者でこれほどまとめられるとは。鳴ってる音もフレーズの歌わせ方も見事でした。
詩は4つの部分,銀の鐘(ソリの音),金の鐘(婚礼の鐘),真鍮の鐘(警告の鐘),鉄の鐘(弔いの鐘)から成り,誕生-結婚-苦難-死を表すとも読める。時代を4つの金属で表すのは古代のギリシャやローマにもあり,黄金・銀・青銅・鉄とされ次第に世界が悪くなっていくとされた。鉄の時代は「欲望と争いに満ち満ちた時代」とされ,ポーの詩では真鍮に相当する。弔いの鐘が入っているところは現代的で,ラフマニノフの合唱交響曲「鐘」はこの詩(のロシア語訳)に作曲されており,作曲のインスピレーションはそのあたりにあるのかもしれない。
バーバーショップで鍛えた和声感が発揮されたのか,こんな和音を狂いもなく鳴らした上でフレーズが生きてるのは驚くしかない。しいて問題を上げるとすると,あまりにきちんと演奏されるため,詩から感じる「おどろおどろしさ」がないところ。人間存在の根底を揺さぶり不安にする,そんな感じはなく,ただただ演奏の凄さに感じいってる間に終わってしまった。まあしかし,そん要求は贅沢な話で,この曲をこのレベルで演奏できるのは,関学グリーしか考えられない。
アンコールは本山先生が「いつからか野に立って」から「虹」とステージと同じ曲という珍しいパターン。広瀬先生はシベリウスの「Ne pitkän matkan kulkijat 」,これは昨年の(第72回の)全日本合唱コンクールの課題曲。ゆえ,どちらもアンコールというレベルを遥かに超える完成度。そして「男声合唱とピアノのための「うたうべき詩」」から「うたうべき詩」。最後は当然,新月会と高等部を加えたU Boj。もう堪らんわあ。
ストームは通常はロビーで行われるが,今年は新型肺炎感染拡大防止のため,ロビーでの合唱は禁止で,ステージでのストームとなった。関東の大学合唱団ではみたことあるけれど珍しいパターン。Sound celebration,Ride the Chariot,関西学院校歌「空の翼」。
お疲れさまでした。来年も素晴らしい演奏会になることを期待しています。
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