第83回関西学院グリークラブリサイタル


2015-02-10

 12月の同志社グリーに続く,久々の大学グリークラブの演奏会。団員が100人ぐらいいるとは素晴らしい。も一つ,女子マネージャが20人ぐらいおられるのにもビックリ。いわゆる雑用を,彼女たちがこなしてくれるなら練習にも集中できるよね。


 校歌A Song For Kwanseiの第一声を聴いても更にビックリ。昔と比べて,テノールが頭声を良く響かせて前に出てくる。対照的に,ベースは掘った太い声ではなく,軽めに全体を支えている。感覚的に言えば,昔のハーモニーはピラミッド型(三角形)で,現在はビル型(四角形)。太く強いベースの上に各パートを載せていく昔のハーモニーに対して,今は各パートが対等に音を鳴らしている。トップのピッチが高く取られているのに合わせて,ベースのピッチも高め(昔のピッチは低かった,ということではない)。ビブラートもなくして,音を正確に合わせることに注力している感じ。このあたりが,今風のハーモニーの鳴らし方なのだろう。

 「ハーモニー優先」と言ってしまうと,ちょっと語弊がある。昔昔,1960年頃までは関学の完璧なハーモニーは他団の羨望の的だったけど,同時に「壁を塗ったようなハーモニー」「トンネルの中で歌っているよう」とも揶揄された。その後,OBでもある北村先生を迎えてピラミッド型のハーモニーを土台に積極的な楽曲表現に挑戦し,一時代を築いた。この時代のハーモニーが悪かったわけではないが,どうしてもベースの重厚さに圧倒されて微妙な和音が聴き取りにくかった。そういう意味では各パートがイーブンにハーモニーをキチンと鳴らし,表現に取り組もうという所か。

 選曲もトーンにあったものが選ばれている。現役のステージ,「アメリカの現代合唱作品」,男声合唱曲「永訣の朝」,Barbarshop Showtime,男声合唱とピアノのための「ことばあそびうたII」,男声合唱組曲「雨」。今のトーンと良くあっている。


 「アメリカの現代合唱作品」は客演指揮者の本山先生が振られた。トーンに関し,先に述べたようなことが最も感じられたステージ。関学OBでない先生が,今の関学トーンを更に磨き上げた印象。

 「永訣の朝」は良い曲だと思うが,少し単調にきこえた。発声がある意味「型にはまっている」ためか,音色の変化に乏しい(どのステージにも大なり小なり言える)。母音も良く揃っているため,かえって変化を付けにくいのか。

 指揮者の広瀬先生はBarbarshopがお好きだそうで,これは今のトーンでないとちょっと辛い。昔からある「お楽しみステージ」。

 「ことばあそびうた」は北村先生による初演も聴いたが,難曲を初演するためか安全運転気味だった。既に男声合唱のレパートリーとしてこなれていて,歌詞と上手く遊んでいた。やはり,音色をもう少し変化させられたら更に良かった。


 新月会や高等部グリー有志との合同演奏,「Sea Shanties」は昔の関学トーンを彷彿とさせ,大変懐かしかった。レパートリーとして手の内に入っており,スゥインギーな所は関学ならではでした。


 さて,最後のステージは多田先生の「雨」。良い演奏だった。関学の演奏は,昔のレコードやリサイタルでの実演を聴いたけど,終曲については最も良かった。かなり練習しているようすが感じられる。ただ,個人的にはその前の「雨の日に見る」が物足りなかった,というのは贅沢か。レコードの演奏は,この曲がすごい。明治大学が1967年に初演して直ぐにレパートリーとされたようだが,時代は学園紛争のまっただ中。関学も学校が封鎖されて練習場にも事欠き,東西四大学も開催できるか危ぶまれていた。その中であれだけの演奏を聴かせた事が凄い。どうしても「ザボンが輝く」に象徴的意味を感じてしまう。この「希望」が輝くこととの対比に,終曲をおいてもらえたら,たぶん涙無くして聴けないだろう。

 ちょっと小ネタだけど,一曲目「雨の来る前」で「室に居る」は楽譜では「しつにいる」となっているが,関学は伝統的に「へやにいる」と歌う。私は関学スタイルが好きだけど,どうしてだろう。たまたま聴いた明治大学グリークラブの録音(1967年の定演)でも「しつにいる」となっている。東京六大学での初演時は「へや」だったのだろうか? または,合唱コンクールの課題曲では「へや」だったのか? 多田先生の曲で読み方が変わることはときどきあるけれど,関学だけなぜ今でも「へや」と歌うのだろうか? 


 アンコール,どれも良かったけどやっぱりU Boj。これ聴かないと関学の演奏会に来た気がしない。OBと合同で,昔の関学トーンが鳴り響くのは,やっぱり嬉しい。歌詞が原曲判明前の旧いものである点もオールドファンには嬉しい。年配のOBへの配慮であろうか?


日本男声合唱史研究室

日本における男声合唱史の研究 Study on male chorus history in Japan 主として明治期から1980年頃までの,日本の男声合唱について資料調査したことを中心にアップしていく予定です。いわば,私家版の「日本男声合唱史」を作る試みです。 タイトルは思い切り気張ってみました(笑)。 2024年4月15日から「無料プラン」の仕様が変わるため,構成を組み替えました。

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