宮崎謙一「絶対音感神話」
2015-06-02
合唱に多少関わって,もっとも苦労するのが音取り。普通に書かれた楽譜なら問題はないけれど,臨時記号が多用されだすと大変。調があるのか無いのか分からない現代曲になると,大変な苦労をして音をとる,というか,音を覚える。そんな私にとって「絶対音感」は憧れで,どんな難曲も初見ですらすら音をとって歌えたらどんなにいいだろうと思う。
という素朴な憧れが,この本を読んでそうでもないのかなと思うようになった。絶対音感と言えば,最相葉月さんが本を書いているが,宮崎さんのこの本は化学同人から出ていることから分かるように,著者は実験で絶対音感の細部に迫る。データで示される絶対音感の中身は,思っていたより複雑だ。
まず絶対音感の獲得は,幼児期の教育がものを言う。これは直感的にも思うことだが,実は日本では音楽学校の学生が絶対音感を持っている率が非常に高い。中国や韓国もそうで,アジア系は全体に高い。これは人種的な違いではなく,幼児期の音楽教育によるものらしい(ヤマハ音楽学校とか)。
次に,一口に絶対音感と行っても,全ての音の高さが直ぐに分かる本当の絶対音感と,分かる音とそうでない音がある部分的絶対音感がある(黒鍵の正答率が下がることが多い)。全く不思議なことに,音名は正しいのに高さを1オクターブ間違える「オクターブ・エラー」を起こす人が絶対音感所持者にはいる。負け惜しみかもしれないが,オクターブを間違えることは筆者は無いと思うのだが。
また,絶対音感の所有者は相対音感が不正確であることも示される。3度や5度などの音程は,いわゆる音感として身につけているもので,聞き取りをやれば概ね和金ものだけど,絶対音感のある人の中には,各各の音の高さを認識した上で,その間隔を数えて何度か割り出す作業を行う人がいるらしい。更に,例えば長3度と短3度を区別できない人もいるそうで,どうも絶対音感の獲得は想像していたような素晴らしいことではないようだ。
相対的な音感は,ほぼ全ての人が身につけられる。しかし,その機能は実は,かなり複雑な脳の情報処理が必要である。一方,高度なことのように思える絶対音感は情報処理の点からは単純でより簡単である(音の周波数と音名の一対一対応のみが必要)にもかかわらず,訓練を受けた少数の人しか獲得することができないのはなぜか。答えは単純で「人間にとって相対音感の方が大切だから。」「音声によるコミュニケーションでは音の高さより,抑揚のような相対音高のようなパターンを正しく捉える方が重要だ。」
どうやら,音感については相対音感を磨く方が良いようだ。譜読み力の向上については,やれやれ,コーリューブンゲンでも勉強していくか。
0コメント