なにわコラリアーズ第21回演奏会

2015-05-10

 コーラスメッセで聴いた「なにわコラリアーズ」が迫力あったので,チケットを入手して演奏会に出かけた。メッセでは30名程度だったが,この演奏会では概ね60名程度がオンステ。一般の男声合唱団は平均年齢が高いが(定年退職後の方々が多い印象),ここは若いメンバーが多い。客席の平均年齢も若そう。

 曲目は「水のいのち」「ラプソディー・イン・チカマツ」「チャイコフスキー歌曲集」「アラカルト・イン・シンフォニー!」。どれも大変上手い。声に張りがあり響きが高いので(特にトップ),聴いていてある種の気持ちよさがある。ただし気になった点もいろいろある。


 男声合唱組曲「水のいのち」。特にクレジットがないので,高田三郎の混声合唱組曲を,作曲者自身が男声用に編曲した版による演奏と思われる。よく歌われるけど,日本語を丁寧に歌わないと良さが伝わらない難しい曲。演奏は,サウンドはきれいだし,日本語表現に努力しているところは伝わるが,時にSやKの子音がきつすぎて,音楽を殺しているところが何カ所かあった。足りないと聞こえないし,意識しすぎると不自然になる。バランスが難しい。フレーズの作り方も含めて,練習量豊富な高校や中学の合唱団のコンクール等での演奏と比べると,やや聴き劣りする。仕方がないところではあるのだけど。あと,トップががんばりすぎて(ものすごく声が出る人が一人おられて),全体のバランスが良くなかった。美しいことは認めるけれど,そのトーンで全曲が塗りつぶされて単調に響いたのは残念。


 「男声合唱のための『ラプソディー・イン・チカマツ』<近松門左衛門狂想>」は,千原英喜氏の混声合唱曲を,これも作曲者が男声向けに編曲したなにわコラリアーズの委嘱作品。一部は昨年8月の第10回世界合唱シンポジウムで演奏済みとか。仕掛けや演出が盛り込まれ,本日一番良かったステージ。トップがやや控えめになり(その分当たり切らなくなった感もあるが),ソリストなどの声も張りがあり,台詞回しも含めて大変楽しめた。素晴らしい。


 男声合唱曲「チャイコフスキー歌曲集」は福永陽一郎の編曲。1973年に慶応義塾ワグネル・ソサイエティー男声合唱団のために,まずロシア語で編曲され,その後1980年にドイツ語歌詞が入手できたため,福永氏がドイツ語で演奏された(ロシア語の語感に自身が無かったとか)。この演奏会でも,ドイツ語で演奏された。チャイコフスキーは多分,ロシア語に作曲しただろうから(少なくとも曲集の「騒がしい舞踏会で」はトルストイの作詩),元はドイツ語である「憧れを知るもののみが」だってロシア語の語感に作曲されたはず。語感が分かるからドイツ語にすると言うのも,よく分からない。例えて言えば,日本語の歌詞を英訳したものに英国人が作曲し,その曲に元の日本語歌詞を載せて演奏しているようなもの。ロシア語とドイツ語がどれぐらい違うのか知らないけれど。編曲自身は,各パートに歌い所を上手く割り振った力作だと思う。

 演奏は美しかったけれど,ロシア的郷愁というか,ロシアの大地の香りが感じられなかった。良く言えばエレガントなのだけれど。リズムの歯切れが良すぎるからか?過去に聴いたワグネルや関西大学グリーの演奏と比べて,感動できなかった。


 「アラカルト・イン・シンフォニー!」は,演奏会がザ・シンフォニーホールで開かれたことを記念する,アラカルト集。選ばれた曲はどれも面白く,さすがである。個人的には松下耕のPange LinguaとNawba Isbahan y Cantos de Bodaが良かった。後者は,スペインの作曲家がアラビアのメロディーに基づいて作曲した結婚の祝福歌だそうで,なるほど,モロッコできいた民族音楽のように小鳥のさえずりのように舌をふるわす音も使われていた(本当は舌を横に動かすらしいが,たぶん巻き舌でやっていた)。歌詞カードを見ると母音がaiueoの5種使われているので,アラビア語では無いと思うが何語なんだろうか。


 なんとなく,この合唱団はトップが主に旋律を歌う「普通の合唱」をやるより,民謡に取材した,あるいは,少し前衛的な合唱をやった方が良さが発揮できるような気がした。

が,とにもかくにも,大変上手い合唱団で,聴いて満足できることは間違いない(いろいろ書いたけれど)。最後に,伊東恵司さんは,手を大変大きく振って指揮をされる。伊東さんが師と仰がれる福永陽一郎氏は背が高く手も長いため,指揮棒の動く範囲がものすごく広くて,客席からみていてもついて行くのが大変だった(歌う方は練習を積むとそうでもないのかもしれませんが)。伊東さんの指揮は,福永氏を彷彿とさせるところがある。指揮棒を使われない分,見やすいかもしれません。


日本男声合唱史研究室

日本における男声合唱史の研究 Study on male chorus history in Japan 主として明治期から1980年頃までの,日本の男声合唱について資料調査したことを中心にアップしていく予定です。いわば,私家版の「日本男声合唱史」を作る試みです。 タイトルは思い切り気張ってみました(笑)。 2024年4月15日から「無料プラン」の仕様が変わるため,構成を組み替えました。

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