正高信男「音楽を愛でるサル」

  2014-10-20

 「ケータイを持ったサル」という快著を表した著者による,音楽論。私が特に面白いと思ったのは「オペラ座のサル」の章。テナガザルは雄と雌がつがいとなり,なわばりを主張する時にデュエットで「歌う」。そのときの歌い方を調べたところ,なんとベル・カント唱法(本の中ではソプラノ唱法と書かれている)で歌っていた事が分かった,というもの。ベル・カント唱法とは,イタリア語で「美しい声」を意味し,簡単に言えばオペラ歌手のような歌い方。西洋のクラッシック音楽での声楽はこの唱法が基本。

 西洋以外の地域では,音楽に使われる発声は「地声発声」であることが多い。日本の浪曲とか民謡とかがそう(生で聴くと,実際には頭声もかなり使われているのだけど,ベル・カントほど喉を開けて共鳴させていない)。そのため,芸能山城組では地声発声の合唱を志向し,ブルガリア民謡などを現地の発声に準じて唄っていた。
 そういうこともあり,ベル・カント唱法は西洋の特異的な発声方法だと思っていた。しかし,もしサルの鳴き方がベル・カント唱法であるなら,初期の人類はベル・カントで歌っていた可能性がある。最近の学説では,歌が言葉の起源とされているので,朗々たる声で喋っていたのかもしれない。今でも,イタリア人とか一部の中国人は実に良く「当たった」声で喋っているし。

 もしそうだとしたら,いつから人類は地声で喋るようになったのだろうか(あまり遠くまで声を飛ばさないしゃべり方)? 安直に考えると,採取生活から狩猟生活に切り替わったあたりではないだろうか。狩りになれば通った声の方が有利だけど,獲物に接近する段階では響かない声の方が有利だから。今後解明されたら面白い。

 余談 ヘリウムガスを吸って喋ると声が甲高くなるのは,声の倍音成分がヘリウムガス中で高音側にシフトするため。鳥の声には倍音成分が含まれていないため,人間そっくりに喋るインコの声は高くならないそうです。

日本男声合唱史研究室

日本における男声合唱史の研究 Study on male chorus history in Japan 主として明治期から1980年頃までの,日本の男声合唱について資料調査したことを中心にアップしていく予定です。いわば,私家版の「日本男声合唱史」を作る試みです。 タイトルは思い切り気張ってみました(笑)。 2024年4月15日から「無料プラン」の仕様が変わるため,構成を組み替えました。

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