東西四大学の定期演奏会をすべて聴く試み,第一弾は同志社グリーの第112回の定期演奏会。正式表記は「第佰拾貳回」となっていて,最近明治時代の楽譜や新聞記事を読んでいる自分には妙に懐かしいけど,なんでこんな表記にしたのかな。芭蕉の句による曲に雰囲気を合わせていくためか?
会場は京都コンサートホール,惜しいことに満席ではない。まずエールは,東西四大学のときのような力みがないためか,トップも素直に響いていて聴きやすい。ベースは喉が温まっていないのか,すこし硬い。人数的にもテノール系が多く,響きの面からも「テノールの同志社」は健在。人数は,一昨年より少し減って46-7名。
表記を尊重して,第壱幕(第1ステージ)はJosquin Des Prez 作曲 Elliot Forbes編曲のMissa Mater Patris,指揮は伊東恵司さん。このミサは日本では皆川達夫さんが編集した版での演奏が多く,ハーバード大学グリークラブの指揮者だったForbes氏の版によるものはあまり聴かない。1975年ごろに京都大学グリークラブがCredo以外を,その後の1979年に全曲を演奏しており,同志社も1983年の東西四大学で福永陽一郎氏が指揮して演奏している。Forbes版は皆川版より(原曲より)半音低く編曲されているので,一部パートや音の相違がある。また,musica ficta と呼ばれる中世音楽の演奏方法に対する解釈の違いにより,音も違っている部分がある。皆川氏は自ら原譜から解読して編曲しているのだろうけど,Forbes氏は別の人(A. Smijers)が解読した楽譜をもとに男声合唱視点で編曲をしている。その意味では編曲に作為がないとも言える。
演奏は破綻なく進んだけど,ポリフォニーは歌い慣れていないためか,掛け合いの妙を楽しめるレベルにはなかった。ホモフォニックな部分は皆が揃って安心し,良い音を鳴らしているが,ポリフォニー部では他パートに旋律を渡して自分は引く,そういう歌い方ではなかったので複雑な絡み合いを浮き立たせることはなく,声の大きいパートが終始目立つていた。こういう部分を聴きあって自然にこなせるようになったら,次のステージに飛躍できるような気がする。
個人的には,Sanctus・Benedictus が割愛されていたのは残念無念。テノールの掛け合いにベースが「割って入り」,Hosannaに繋がる部分はこのミサの聴きどころにして敬虔で感動的な部分だと思うので,なぜカットしたのかよくわからない。
第貳幕は,草野心平作詩多田武彦作曲の男声合唱組曲「富士山」。指揮は学生の東大生(あずま たいせい)さん。悪い演奏だとは思わないが,メロディーの美しさに飲み込まれたのか,フレーズの息が短く,立体感がやや乏しい演奏だった。指揮者がイッテQの出川哲朗ばりに伸び縮みして振っているのだから,合唱ももっと応えてあげたほうが良い。トップがきれいなので終曲は栄えたけど,声がひっくり返りかかる人がいたのは,同志社のトップにしては珍しい。あと,トップの面々は感情が豊かなのか,身振り手振りまで入って歌っておられるのは,指揮者の動きとも相まって面白かった。合唱中の手振りについては意見がある人がいると思うが,私は良い合唱さえ聞かせてもらえれば,動くなと言うつもりはありません。
第参幕は東西四大学ステージの再演で三善晃作曲の2曲。まず,「男声合唱とピアノのための『三つの時刻』」作詩丸山薫,続いて「二群の男声合唱とピアノのための『路標のうた』」作詩は木島始。ピアノ伴奏は萩原吉樹さん,指揮は伊東恵司さんで四連と同じく二回生以上の31名。前回のステージと同じく,練り上げられたフレーズと鳴るべき音がなるのは気持ちが良い。とても素敵なステージだった。
ただ,この人数で二群に分かれるのは少しきつい。好演だけど,もうすこし人数が欲しいところで,一回生の参画はむつかしかったのかな。完成度が高いので大変かもしれないけど。そのため,フォルテのところでトップが頑張って吠え気味になり,発声が荒れる。自分はベースなのでトップの発声はよくわからないが,充分に響いていない硬い声が飛んで来るのは感心しない。四連のときのエールもそうだったけど,音量を出さねばと力むとこうなるみたい。同志社のトップらしからぬところで,ファンとしては改善をお願いしたい。
第肆幕は,「芭蕉の句による無伴奏男声合唱曲『月に詠ふ』」で作曲は新実徳英さん, 指揮は客演の清水敬一さん。正直,俳句はよくわからないのでフレーズの作り方がどうなのかは分からなかった。最近の新実さんの曲にそういうことをもとめてはいけないのかもしれない。一方で,ハーモニーとしては実に丸くて良い音が終始鳴っていた。こういう言い方が褒め言葉なのかわからないけど,関学を思わせるハーモニーのオーラに包まれていて,「同志社もやれるやん!」というステージ。伝統的にハーモニーを大切にする東京大学コール・アカデミーの委嘱作品である,曲にもよるのだろうけど,清水さんの歌い方に対する指導もあるのだろう。特にトップは無理に張らずに歌っていたのが結果的に良かった。作曲者も会場に来られていて,アンコールで懐かしい「鳥が」が聴けたのは嬉しかった。
全体に,後半のステージが素晴らしかった。同志社グリーの現在の力が充分に発揮されていたと思う。聴いて気持ちが良い合唱,これが自分的には同志社グリーに対するキーワード。そういう力がある合唱団なので,力まずに自然に歌って今後とも気持ちのよい合唱を聞かせて頂ければ,ありがたい。
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