昨日に続き,今日は東京に移動して早稲田大学グリークラブの第64回定期演奏会を聴く。我ながらようやるとは思うが,関東の大学男声合唱団の定期演奏会も聴かないと,何となくフェアでない気がしたためだけど,結論から言うとその考えは正しかった。
オンステメンバーはプログラム上95名。校歌は迫力のユニゾンから力強いハーモニーにしっかり移行する。一人ひとりの声がでることでは,早稲田は東西四大学で一番。人数だけではない音圧のある歌声で,発声が良いとか悪いとかいう以前に圧倒され,それに身を任せてしまうと心地よくさえある。「他では得られない」早稲田のone of a kindな強み。ハーモニーが決まったときの重厚感は他団ではなかなか聴けない。安定して人数が多いので,まとめるのは大変だろうけど,圧倒的な声の力を作るというのが自然に行えているのかもしれない。
第1ステージは,奇しくも昨日同志社グリーも演奏した「男声合唱とピアノのための『三つの時刻』」と「二群の男声合唱とピアノのための『路標のうた』」。指揮は松井慶太さん。フレーズを作り込んでいるのが感じられたが,グリーンメンの共感が他のステージより弱いのか,やや機械的に「作業」しているように感じられた。年間レパートリーとし,上回生のみで臨んだ同志社のような細やかな肌合いには届かなかった。しかし,「路標のうた」は一群で40名以上いるので,歌唱の安定感は早稲田の方が高かった。しかし,オリジナルのピアノ譜を失くしたのは誰なんだろう?
第2ステージは,高嶋昌二さんの指揮する「キレッキレ! ギャグ&ポップス」。中島みゆきの「糸」や「ファイト!」,嘉門達夫の曲などが歌われた。高嶋さんが淀川工業高校グリークラブでこういった曲を取り上げておられたのはYoutubeで知っていたが,生のお姿と指揮,演奏を聴くのは初めて。聴いて初めてわかったのは,ギャグの歌で笑わせるには日本語がはっきり歌えていないと伝わらない。高嶋さんがいくら煽っても聞き取れない限り笑えない訳で,合唱に高度な技術がいる。また,中島みゆきを歌うには,彼女の独特の声と節回しを乗り越えるフレーズづくりの妙が必要。単におもろいおっさんがおちょけているわけではない。こういうステージに野暮を承知で言うと,グリーメンは相当勉強になったのではないか。笑いと涙を織り交ぜて歌わせるのがすごい。グリーンメンもよく応えていた。「ファイト!」は脱帽。
第3ステージは多田武彦の男声合唱組曲「木下杢太郎の詩から」で,学生の小林昌司さんの指揮。曲は多田武彦が当初「柳河風俗詩に始まる私の叙情的組曲の集大成とも言えるもの」と述べた自信作だけど,案外と歌われなかった。その後1曲増やし他の曲も改定したけど,うーん,正直そこまで自信を持たれるような曲かな。グリーは精一杯に歌っていたし,決め所のハーモニーは多田さんらしかったけど。今ひとつ乗り切れなかった(多田さんの曲としては)。
詩が書き方も含めてなかなか面白くて,曲も今風の感じで面白く聴けた(こういう表現しかできないところが年寄りだなあ)。しかし,グリーメンが詩を読み込んているのか少し疑問。詩と指揮からイメージする音(フレーズ)と,実際の音とが合わないところが時々あった。ステージ数も多く,「難ステージ揃いだった今年度前期の演奏会」らしいので(たしかに四連の「ハレー彗星独白」は難曲であることは認める),合唱コンクールに出る中高生のように詩を読み込むことはできないだろうけど,なんか勿体無い。かって福永陽一郎は「譜面が全てであって詩を読む必要などない」という福永先生らしい極論を言われたけど,アマチュアはそれではあかんと思う。
ステージが終わり,各先生ごとのアンコールも終わったあとで,ステージストームと言おうか,各パートごとに旗を掲げ,早稲田の応援歌等を肩を組み歌うのはかなり驚いた。早稲田独特? 関東ではよくある? 関西では見たことがないパターン。ロビーストームもあったので更にびっくり。
日本男声合唱史研究室
日本における男声合唱史の研究 Study on male chorus history in Japan 主として明治期から1980年頃までの,日本の男声合唱について資料調査したことを中心にアップしていく予定です。いわば,私家版の「日本男声合唱史」を作る試みです。 タイトルは思い切り気張ってみました(笑)。 2024年4月15日から「無料プラン」の仕様が変わるため,構成を組み替えました。
0コメント