第66回 東西四大学合唱演奏会

 昨年に引き続き,東西四大学合唱演奏会(以下,四連)を聴いた。今回の演奏曲目を知って,また,昨年度は各校の定演を全て聴いて我慢できなくなって,東京まで来た次第。演奏曲をすべて知っている演奏会というのは(エールも含めて)ありそうで,なかなかない。


 まずはエール交換,実はこれが楽しみ。関西学院,アンサンブルがまとまり,またトップがよく鳴っている。音色は若干固め。早稲田大学,特に二番になってから力で歌い放すのではなく,合唱としてまとめる歌い方をしてきた。テノールのeの母音は平べったく前に出てくる感じで好みでないのだけど,こういうものなのだろうか。同志社,トップの突進力は変わらず。ベースが少ないのが苦しい。慶應義塾,発声と高音・低音のバランス,そしてハーモ二ーの鳴りは一番良かった。安定感が素晴らしい。


 1ステージ,関西学院グリークラブは多田武彦作曲の男声合唱組曲「富士山」。指揮は広瀬康夫先生。男声合唱をする人は誰でも知ってる「富士山」を四連のステージにかけるのは覚悟がいるだろうに,そこに取り組むのが関学らしい。エールと同じくやや硬めの声で(硬口蓋発声という意味ではない)フォルテの音量をとっている感じ。pからfまでアンサンブルのバランスが崩れないので,広瀬先生のフレージングを載せると,実に立体感ある富士山が,大きく小さく描き出され,見事だった。個人的には終曲で,平野すれすれの雲・大驟雨・夕映えの富士を対比して美しく歌い上げてくれたら嬉しいが,今日の演奏はかなり良かった。「翠嵐ガラスの」をコントラバスのように低音から高音へ歌い上げてくれたら(昔の関学ベースのように),言うことなし。なお,1曲目から終曲まで音取り無しで通したのは関学の凄さ。並の合唱団では悲惨なことになる。63名の演奏(遠くが見にくいので,多少違うかもしれない)。


 第2ステージは,早稲田大学グリークラブの「北東欧アラカルトステージ」。トルミスの「古代の海」,スメタナの「海の歌」と海の歌を2曲。指揮は松原千振先生。このステージ,私が今まで聴いた早稲田の中で最も良かった。力強い声で重厚なハーモ二ーが鳴り,松原先生の繰り出す多様な表現に音楽が躍動する。特にスメタナを楽しみにしていたのだけど,日本人がここまで歌えるのだなあ,と感動した。ヨセフ・ヴェセルカ指揮のプラハ・フィルハーモニー合唱団のLPでは人数が少ないのか,または録音の問題なのか分からないが,各パートの動きがもう少しクリアだったが,これだけ歌えれば充分以上。スメタナの他の曲も歌ってもらいたいものだ。定演でも思ったけど,重厚なハーモニーのアカペラ,声の力が要る曲,外国語。この三つを充たした上で,指揮の先生を得たときの早稲田は凄い。49名の演奏。


 休憩を挟んで,第3ステージは同志社グリークラブのJosquin Des Prez 作曲 Elliot Forbes編曲のMissa Mater Patris,指揮は伊東恵司先生。昨年度の定演でも演奏されたが,今回はSanctusとBenedictusを省略しない,いわば完全版。定演の感想では「ポリフォニーは歌い慣れていないためか,掛け合いの妙を楽しめるレベルにはなかった」と記したが,あれから練り上げ,他のパートを聴きながら表に出たり引っ込んだり,立体的にうたうことにかなり成功していた。ただ,メンバー表によればトップが14名でベースが7名。ただでも強力なトップが目立つのは,合唱技術だけではカバーできない。ベースはよく頑張っていたけれど,少し気の毒。全体は40-41名。


 第4ステージは慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団の高田三郎作曲「ひたすらな道」,指揮は佐藤正浩先生。最初に書いておくと,合唱の完成度はエールに引き続きワグネルが最も高かったと思う。発声・ハーモニ・フレーズ,そしてパートバランス。まさに非のうちどこがない。本当に復活したなあと感心しきりである。

 しかしながら,この曲に関しては個人的な思いに邪魔されて,充分には楽しむことができなかった。ワグネルが悪いのではなく,完全にこちら側の問題。

高田先生は「水のいのち」など混声で作曲した曲を自ら男声や女声に編曲される。「ひたすらな道」も元は混声だが,早い段階で女声版が作られた。この女声版を,1970年代後半を中心に山形西高校など東北の高校女声合唱団が,日本語表現の完成度を極限まで磨き上げ,相次いで全日本合唱コンクールで歌った。大学生だった私は,これらを聴いて涙した。

 自分は今でもほとんど男声合唱しか聴かない男声合唱好きだけど,この体験故に,この組曲に関しては女声しか受けつけない。男声の厚い(厚ぼったい)ハーモニより,女声の軽いけれど透明なハーモニによる演奏が刷り込まれている。果敢にこの組曲を取り上げたワグネルには申し訳ない気持ち。53名の演奏。


 休憩を挟んでの合同演奏は,三善晃作曲の男声合唱版「唱歌の四季」,指揮は佐藤正浩先生。みなよく知っている曲で,楽しめた。選ばれている曲について書きたいこともあるが,省略。


 アンコールで鈴木輝昭作曲の「満天の感情」の終曲「忘却」が演奏された。「唱歌の四季」がピアノ連弾の伴奏だったため,この曲も2台のピアノ伴奏用に編曲されたものを初演された。CDで聴いて良い曲だと思っていたので,地味に嬉しい。「唱歌の四季」の監修を鈴木輝昭先生がされたそうで,そこのつながりだとか。そう言えば,昨年のワグネルの定演でも,アンコールは連想ゲームでつながっていたなあ。


 ステージストームは,関学はU BOJ!,早稲田は斎太郎節,同志社はSoon ah will be done,慶應がメンデルソースゾーンのTrinklied。スメタナのSlavnostni sbor(祝典讃歌)かと思いきや,避けたのかな。


 今年の四連は各校の個性が遺憾なく発揮されていて,楽しめました。東京まで来たかいがあるというもの。来年は2018/6/24に京都コンサートホールで開かれるらしいので,今から楽しみ。


日本男声合唱史研究室

日本における男声合唱史の研究 Study on male chorus history in Japan 主として明治期から1980年頃までの,日本の男声合唱について資料調査したことを中心にアップしていく予定です。いわば,私家版の「日本男声合唱史」を作る試みです。 タイトルは思い切り気張ってみました(笑)。 2024年4月15日から「無料プラン」の仕様が変わるため,構成を組み替えました。

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