なにわコラリアーズ 第22回演奏会

2016-05-08

 2016/5/7に開催された「なにわコラリアーズ第22回演奏会」を聴いてきたので,例によって勝手な感想を書く。

プログラムは第1ステージが千原英喜さんの「どちりな きりしたん」,第2ステージが團伊玖磨の「岬の墓」(福永陽一郎編曲),第3ステージは「リヒャルト・シュトラウス歌曲集」(福永陽一郎編曲),第4ステージは「Enjoy アラカルト!」と称して様々な曲を愛唱歌から前衛的な曲まで取り上げる。この団体,昨年も聞いたのだけど,今年のほうが良かった。特に後半は素晴らしかった。以下,ステージごとに。


 第1ステージの「どちりな きりしたん」,部分的に混声で聞いたことがあるので,多分もともとは混声曲だろう。作曲者も会場に来られていて(指揮者の伊東さんが第1ステージのあとで紹介するのを忘れるという失敗があった),たぶん練習でもご指導があったのだろうけど,なにコラメン(こういうのか知らないけれど)は歌うことに戸惑いがあるように感じられた。個人的にキリシタンの時代に興味があり,どんな演奏になるのか楽しみだったのだけど。

 岩波文庫の「どちりな きりしたん」によれば,この本は1600年に長崎で刊行され,キリシタンの教義の意味。信徒になるための必読書で当時最も広く読まれた。歌詞の日本語部分には明らかにこの本以外から取られた字句が散見され,まさに当時のキリシタンが理解していた教義として構成されているようだ。一方,歌詞にはラテン語やギリシヤ語の部分があり(Tantum ergoやKyrie eleisonなど),日本語歌詞と対比される。恐らく,宣教師たちの持つ「キリスト教」と,日本人キリシタンが受け止めていた,本来のキリスト教とは微妙に異なる「キリシタンの教え」とが,共鳴したり不協和したりする様を表現したかったのではないか。終曲がAve verum corpus (幸いなるかな,誠の御体)と,イエスの受難を歌うのも象徴的で,キリシタンたちの運命をイエスに重ねているのだろう。

 これらが正しいとして,表現するのはとても難しい。キリスト教とキリシタンの教えを交錯させて表現するのは至難の業で,なにコラメンもどう表現し歌うかを苦悩しているようだった。終曲が最も美しく歌われたのは,この曲が純粋にキリスト教の音楽であり,その苦悩から開放されたからであろうか。


 第2ステージは「岬の墓」,混声合唱の名曲中の名曲を,福永陽一郎先生が早稲田大学グリークラブのために編曲し1975年の東京六大学合唱連盟の定期演奏会で初演された。混声合唱曲の男声版は,どうしても音色の色彩感が薄れ,水墨画か白黒写真のようになる。稀有な成功例は「海の構図」だと思うが,「岬の墓」は白い墓・赤い花・紺碧の空など,過去現在未来がカラフルに表現されるので更に大変。女声と男声が掛けあう部分もあり(團伊玖磨が多用する),どうしても限界がある。

 なにわコラリアーズ,わかったうえで挑戦しているからか,かなりうまく表現された。特に「美しい船よ」から始まるクライマックスとも言える部分,力強く美しく,男声合唱の醍醐味を味わうことができた。ボリュームも圧巻。しいて言えば,トップがオブリガートになる部分はもっと引いて欲しかった。主旋律を歌う感じで,本当の主旋律を隠していたのは残念(編曲でしのげる気もする。オブリガートにしないといけないのかどうかも含めて)。


 さて,後半に入って第3ステージの「リヒャルト・シュトラウス歌曲集」は,これも福永陽一郎の編曲で,同志社大学グリークラブが1967年の東西四大学で初演した。本日白眉のステージで圧巻の演奏。感嘆の一言。プログラムにも述べられているが,この曲は(編曲は)難しい。Chorus Score Clubから出た楽譜を入手したので眺めていたが(楽譜には「愛の詩集」と明記されているが,パンフレットには記載がない。伊東さんのメッセージにでてくるだけ),繰り返される転調と曲調に合わせて色合いを変えるハーモニーが実に大変。原曲がどうかは知らないが,少なくとも編曲は凝りに凝ってる。60年台の黄金期にあった同志社大学グリークラブに,これもまだ若かった福永氏が持てる技術を全て入れたような感じ。パンフにある,畑中良輔先生が「今の学生には無理」と言われたのはよく分かる。

 なにわコラリアーズ,このような編曲の難しさを感じさせずに感動的に歌い上げた。抑制が効いたトップの歌いまわし,それを支える機能和声の確実な鳴り,下品にならないドイツ語の子音,出しゃばらずに巧みにサポートするピアノ(こんな言い方は寺嶋陸也先生に失礼か),どこを取り出しても一級品。CDがでるなら欲しい。拍手!

 私は,1976年の東西四大学で同志社が演奏したこの曲集を聴いている。情宣に来られた方が「『愛の詩集』なんて,照れますわ」と言われていたのを覚えている。少し前まで人数が激減してレパートリーに制限があった同志社も,人数が増えて復活の狼煙が上がった頃。この曲集を取り上げられた福永先生の気持ちが,少しわかった気がする。


 第4ステージは,世界の珍しい男声合唱曲を司会をつけて披露した。第3ステージが終わってホッとしたのか,のびのびと歌われていて好印象。かと言って,どの曲も難曲で,お気楽に歌えるものではない。ワイングラスを鳴らすグラス・ハープが入ったり,モンゴルの倍音唱法ホーミーがなっていたり(団員にできる人がいるようで,信じられない),Stroopeの曲を美しく歌ったり。最後はなにコラのおはこ,偽Yoikで迫力たっぷりに締めくくった。どの曲も楽しめました,お疲れ様です。

 昔は,海外の珍しい曲を紹介してくれるのは林雄一郎先生と関西学院グリークラブだったけで,昨今は伊東先生となにわコラリアーズがその役を担ってくださっている。そういう曲を集めたCDも出してもらいたいものだ。


 ストームは「斎太郎節」と「夢見たものは」。間近で聞くと更に迫力。昔はストームやアンコールの日本民謡ものといえば清水脩の最上川舟唄だったけど,すっかり廃れた。

 スマホで動画など撮影される方も多いのだけど,驚くべきことに前の方にいた方々が自主的にしゃがんで,後ろの方々も取りやすいように配慮していた。合唱に興味ある人は,本当に公共心が高いなあ。そうでないと良い合唱にはならないのだけど,街中のモラルレベルより格段に高い。素晴らしい。


日本男声合唱史研究室

日本における男声合唱史の研究 Study on male chorus history in Japan 主として明治期から1980年頃までの,日本の男声合唱について資料調査したことを中心にアップしていく予定です。いわば,私家版の「日本男声合唱史」を作る試みです。 タイトルは思い切り気張ってみました(笑)。 2024年4月15日から「無料プラン」の仕様が変わるため,構成を組み替えました。

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