京都大学定期演奏会のチラシでこのコンサートを知り,楽しみではあるけれど,大雪の中で帰りのことを心配しながら出かける。土曜日開催で17:30開演と少し早めだったのが救い。男声合唱史に興味を持つ者として,日米の大学男声合唱団を同時に聴けることはありがたい機会である。宣伝が効いたのか関係者が多いのか,開演10分前に入場したら,ほぼ満席であった。
ハーバード大学グリークラブは1858年の創団で1912年からは専門家による指導が始まった。団員は学部生・一部の大学院生だが,海外の大学らしく年配の「大学生」もおられる。近年のアジアツアーとしては3回目で,1961年の訪日時には東西四大学とのジョイントコンサートも開催され,朝日ソノラマからソノシートが発売された。
日本の大学同士のジョイントなら,一般に各団2ステージずつと合同1ステージの5ステージあるが,今回は各団1ステージと合同。ただし,ハーバード大の1ステージが長いため(後述),京大のステージは組曲「柳河風俗詩」と,定演で演奏した「高野山 金剛流御詠歌の響き」が続けて演奏され,2ステージが合体した1ステージとなった。今回のハーバード大に限らず,海外の合唱団は大体が前半と後半の2ステージ構成で,1ステージが30分近くある。これに京大が合わせるため,日本の流儀からは変則的なステージとなったのだろう。エール交換もない。
京都大学は30名程度のこじんまりしたアンサンブル。組曲「柳河風俗詩」は,定演から1ヶ月で新しい曲をステージにのせているためか,特に1曲めと3曲めの静かに余韻を味わいたい曲では浮足立った感じでフレーズが短く,次へ次へと急き立てられる感じが残念だった。逆に2曲めと4曲目はリズムに載った演奏で,もう少し歯切れが良ければ良い演奏になったと思う。「高野山 金剛流御詠歌の響き」は定演でも聴いたが,そちらのほうが良くハモっていた。トップの声が他パートから抜けて聞こえる。会場の特性の違いなのか,完成度が下がったのか。
オンステメンバーは60名程度で,声がバラけているとか(地声からよく響くためか),時々ハーモニーが濁るとか,フランス語の発音は日本人並みに下手だとか,隅をつつけばいろいろあるけれど,聴いていて気持ちが良かったのは合唱を楽しんでいるからだろうか。
なお,細かいことだけど,最上川舟歌を「『ホフマンの舟歌』『ヴォルガの舟歌』とともに『世界三大民謡』の一つ」とするのは,「ヴォルカの舟歌」に対して失礼でしょう。最上川は1936年(昭和11年)に作曲されたいわば新民謡で,更に作詩の後藤岩太郎は「『ヴォルガの舟歌』の掛け声をもう少し直して,唄いの新内の部分をのぞいて作ってみたら」と ヴォルガの舟歌をお手本に作ったことを書き残している。面白い曲であることは確かだけど,「世界三大民謡」は言いすぎでしょう。
最後にハーバード大のエール「Fair Harvard」を合同で演奏。普通のジョイントでは両校が交歓するけれど,遠来の客を歓迎する意味でこういうのも良い。この曲,むかし学校で「春の日の花と輝く 麗しき姿の」と歌ったメロディーで,調べてみると元はアイルランドの曲らしい。
日本男声合唱史研究室
日本における男声合唱史の研究 Study on male chorus history in Japan 主として明治期から1980年頃までの,日本の男声合唱について資料調査したことを中心にアップしていく予定です。いわば,私家版の「日本男声合唱史」を作る試みです。 タイトルは思い切り気張ってみました(笑)。 2024年4月15日から「無料プラン」の仕様が変わるため,構成を組み替えました。
0コメント