なにわコラリアーズ 第25回演奏会

 2019/5/11に「いずみホール」で開催された,なにわコラリアーズの第25回演奏会を聴いてきました。去年はいけなかったので2年ぶり。曲目は以下の通り,オンステメンバーは50名ぐらい。


第1ステージ 男声合唱のための「三つの抒情」三善晃曲,福永陽一郎編

第2ステージ 大作曲家によるドイツ小品集

第3ステージ 男声合唱とピアノのための組曲「天使のいる構図」

       谷川俊太郎詩,松本望曲

第4ステージ アラカルト~RUGBY NATIONS ANTHEM


 第1ステージは,三善晃の「女声合唱のための『三つの抒情』」を1972年に福永陽一郎が男声編曲した作品。同志社グリーのメンバーが減り,東西四大学のオンステメンバーが20名ぐらいになった頃,福永と同グリーが初演した。福永の言葉を借りると「デリカシィの追求だけに明け暮れした,ここ数年であった。もっとも,それなりに成功して,男声合唱というものの概念を変えたとも言われた」ころのこと。女声合唱の「繊細さ」を男声合唱で表現することを意図し編曲されたようだが,なぜ「三つの抒情」を選んだのかはっきりしない。福永はこの曲を好きだったらしく,ライフワークとも言える東芝の「現代合唱曲シリーズ」で最初の女声合唱LPの第1曲がこの曲。

 以上は背景の知識だけど,実はこの曲は聴いたことがほとんどない。それゆえ「女声合唱のための」のイメージを全く引きずることなく,「男声合唱のための」として聴くことができた。なにわコラリアーズの演奏は,アンサンブルのバランスが良く,日本語が素直に(引っかかることなく)入ってくる。男声合唱として自然に聴こえ,曲の向こうに原曲としての女声合唱や女声合唱的なデリカシィを感じることはない。これは,なにコラの演奏にデリカシィがないと言っているのではない。おそらく,1970年頃の男声合唱と2020年頃の男声合唱ではスタイルが変容し,現在では「デリカシィのある男声合唱」が珍しくないからだろう。デリカシィを女声合唱を模することなく男声合唱として表現できる,というと言い過ぎか。三善の原曲と福永の編曲,どちらも「半端ない」でき。


 第2ステージは,メンデルスゾーン,ブラームス,シャーマン,リヒャルト・シュトラウスの曲で構成。伊東さんは「ドイツロマン派の合唱曲を練習していかないといけない,一昨年はシューベルトを演奏したのでそれ以外を取り上げた」と述べておられた。終曲だったリヒャルト・シュトラウスの「Durch Einsamkeiten (孤独で)」WoO124以外は日本の合唱団にもよく歌われる曲で,演奏はメリハリ効かした楽しめるものだった。一方で,しばらく引っかかってる「日本の合唱団がドイツロマン派の合唱曲を歌う意味」が自分の中でまとまらなくて,もやもやしている。

 これらドイツの作曲家たちは,もちろんドイツ民衆のためドイツ語話者のためにこれらの曲を書いたので,作曲家が意識しなくとも詩人が「ドイツ人とはなんだろうか」という意図で作詩しているなら,曲も必然的に「ドイツ人とはなんだろうか」を問いかけている。そこに他国の合唱人がインターナショナル性(福永陽一郎の表現による)を読み取って演奏するとは,どういうことなのだろう? という素朴な疑問レベルで立ち止まっている。書く書くと言って全然書いていないけど,一度これも書いてみて考えないといけない問題。ドイツロマン派だけでなく,この「ローカル+インターナショナル」の構図で考え出すと多くの合唱曲が引っかかってくる。


 第3ステージは,男声合唱とピアノのための組曲「天使のいる構図」。なにわコラリアーズが2009年に初演したけど,そのとき作曲者の松本望さんがフランスにおられ立ち会えなかったとか(このときの演奏はGiovanniからCDが出ている)。10年ぶりに,今回は松本さん自身のピアノでの再演。

 改めて,なにコラは合唱が上手い。今頃なにをと言われそうだけど,日本語が日本語として聴こえるのは,大学合唱団では多くはない。学生指揮者の時に顕著なのは,例えば「多田武彦メソッド」のような楽曲の分析と演奏を以外の要素もありそう。大学合唱団と比べ練習時間は少ないのだから,伊東さんにしても手取り足取り教え込むわけにいかないだろうし。もしかすると暗譜の方法にコツが有るのか。フレーズとして覚えることで,結果的に日本語として脳内で処理され,歌えるとか。いや,わからない。音楽が流れ,時に歯切れよく歌われるのが,心地よかった。


 第4ステージは,ラグビーワールドカップ出場国の,まあ国家または準ずる歌。なにコラが取り上げると一捻りされていて,フランス国歌はマジャール語版だったり,新しく編曲されたりで,国歌と聞いたときの「古臭さ」を感じさせないのはさすが,違和感が出たのは,福永陽一郎が東京コラリアーズのために編曲した「コサックの子守歌」。他と比べると古い感じはするけれど,懐かしかったので良いかな。グリークラブアルバムにも収録され,LPでは立教大学グリークラブが歌ったけど,なぜかCDにはならなかった。


 アンコールはエルガーのLand of Hope and Glory,威風堂々でした。いや,最後までへたらずお疲れ様でした。来年は5月9日ということなので,カレンダーに書き込んだ。来年も,来れますように。なにコラにとっても,良い一年でありますように。


以上

日本男声合唱史研究室

日本における男声合唱史の研究 Study on male chorus history in Japan 主として明治期から1980年頃までの,日本の男声合唱について資料調査したことを中心にアップしていく予定です。いわば,私家版の「日本男声合唱史」を作る試みです。 タイトルは思い切り気張ってみました(笑)。 2024年4月15日から「無料プラン」の仕様が変わるため,構成を組み替えました。

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