第68回 東西四大学合唱演奏会


 2019年6月22日に東京の「すみだトリフォニーホール」で開催された演奏会に行ってきたので,簡単な感想など。

 これで4年連続,東京に聴きに来るのは2回目。完全に年寄りの道楽となりました。この演奏会で現役時代に存在した曲はMesse Solennelleだけなのだけど,若い世代が作曲する日本語曲をピアノとあわせどう聴かせてくれるか楽しみ。松本望さんの曲が2つあり,私も彼女の曲が好きなので嬉しい(感性が若い??)。


エール交換

 ざっくり人数は慶応40人,同志社32人,関学と早稲田が48人。去年より減ってる。なんのかんの言って人数は力,みなさん新歓頑張ってください。

 昔と比べると団によるトーンの違いがなくなり,どこもうまくまとまっている。小貫岩夫さんが早稲田以外のヴォイトレだからかもしれないが,昔だって大久保昭男さんがそうだった。同志社に全部で3人もヴォイトレいるのがすごい。


慶應義塾ワグネル・ソサィエティー男声合唱団

男声合唱組曲「青い小径」(男性版委嘱初演)

作詩:竹久夢二 作曲:森田花央理 指揮:雨森文也 ピアノ:平林知子

 もとは混声合唱で,どうやら学生指揮者の山内さんが男声版の演奏を企画されたらしい。挨拶に上がられた森田さんは「男性版は断るつもりだった,第4曲『あなたの心』は女声が歌ったほうが絶対に美しい」とのことだったが,山内さんのノート(プログラム掲載のものか?)を読まれ,ここまで理解されてるなら,と引き受けられた。

 竹久夢二といえば,大正ロマンを代表する人だけど,第1曲「鐘」の冒頭から,いきなり大正ロマンを想起する音が鳴ったのでびっくりした(和音が古いという意味ではない)。表現難しいんだけど,そうとしか言えない音が。ピアノがジャズ的な不協和音を奏でるのだけど,それが雰囲気を壊すのではなく,移ろいゆく儚さとでもいうべき,絶妙な世界を構築していく。どちらかといえば少女趣味の世界を男性が違和感なく共鳴し歌えるのは,戦前の男性には表現が許されなかった「男の子の内面の女の子」を,現代の男の子たちはためらいなく表現できるからだろうか。正直,曲にも演奏にもかなり驚いた。同志社グリーの人数が減った時,福永陽一郎が三善晃の「三つの抒情」を男声編曲し歌わせ,「男声合唱の概念を変えた」と言われたらしいが,こんな感じだったのだろうか。41名の演奏。


同志社グリークラブ

男声合唱とピアノのための組曲「回風歌」

作詩:木島始 作曲:松本望 指揮:伊東恵司 ピアノ:水戸見弥子

 「回風歌」といえば私には法政大学アリオンコールが委嘱した高橋悠治の曲だけど(作詩の木島始はアリオンコールのOB),今回は松本望さんが作曲されたもの。歌詞を読むとあるメッセージを受け取ってしまいそうになるが,木島が「歌われるさいに,聴衆に必ずしも意味が理解されることを期待しているわけではない。くりかえし,くりかえされる殆ど無意味な言葉の連鎖のなかから,次の一句が出てくればいいわけである」と記している通り,次々と言葉が紡ぎ出されるさまを楽しむのがよいだろう。高橋の曲に比べてメロディアスなので,聴きやすい。

 同志社グリーはなかなかの熱演で,矛盾するようだが,ことばもよく聞こえた。トップが目立ちすぎることなく(いつもほど響きがシェアでなかったこともあるか),全体のバランスが一昨年・昨年より良かった。しかし,同志社のトップに横幅がとても広い人が現れるのは伝統だけでは説明できない(笑)。35人の演奏。


関西学院グリークラブ

Messe Solennelle

作曲:Albert Duhaupas 指揮:広瀬康夫

 今年は関西学院グリークラブがこのミサ全曲を演奏して70周年。現在の部長さんはそのときの指揮者林慶次郎氏(林雄一郎氏の実弟)のお孫さんだとか。

 このミサは自分が現役のときに熱心に練習したためか,今でも暗譜で歌える。若いときに集中したことは身になるなあと思うが,そのため頭の中で音が鳴って客観的に聴きにくかった。それでも,縦横そろったアンサンブルで,とても端正に今日の演奏会で唯一のア・カペラを楽しませてくれた。途中,団員が一人気分が悪くなられたのか?退席するアクシデントもありながら,平静に(少なくとも表面上は)途中で音取りせずに進めるのがすごい。これがきっかけで他の団も歌ってくれるといいのだけど。

 解説には自分が「日本男声合唱研究室」で調べたことも使っていただいたようで嬉しい(https://male-chorus-history.amebaownd.com/posts/5094226)。関西学院が2003年にDuhaupas がオルガニストを務めていたアラスの教会でこのミサを演奏していたとは知りませんでした。48人の演奏。


早稲田大学グリークラブ

男声合唱とピアノのための組曲「天使のいる構図」

作詩:谷川俊太郎 作曲:松本望 指揮:清水敬一 ピアノ:小田裕之

 先日なにわコラリアーズの演奏会で聴いたところだけど,再び聴くことができ嬉しい。最近ご本を出されたところの清水さんの指揮は,客席からみてもどんな音楽を作りたいか,合唱団から音楽を引き出すための工夫がよくわかり,演奏が「立体的に」なる。このスタイルは好みが分かれるかもしれないが,私は好きで,指揮法も選曲も違うけど本山秀毅さんと通じるところがある。

 清水さんに引っ張られたのかもしれないが,早稲田は大変な好演。一時は「四大学で日本語が一番下手」と評したこともあったけど,ここ2年ほど四大学で聴かせていただく限り全く遜色ない。他大学より重厚な音を鳴らせるので,決めどころで鳴るとと快感。48人の演奏。


 清水さんが解説を書かれているのだけど,今書いてる「合唱組曲の誕生と普及」にものすごく参考になる記述があった。

「松本さんは『組曲』として複数曲をまとめあげること」に意義を見出すことをテーマにしているそうですが,それに沿って作曲上の実験を繰り返しているそうです。そのテーマ(組曲としての構成感)を明確に意識して作曲した最初の作品がこの「天使のいる構図」です。

これがまさに「組曲」の存在意義だと思っていたのだけど,作曲家の口から語られていることが収穫(清水脩や多田武彦も構成を語っているがそれはまず詩の話。そこに作曲上の技法があるのだろうけど)。


合同演奏

男声合唱組曲「IN TERRA PAX 地に平和を」

作詩:鶴見正夫 作曲・指揮:荻久保和明 ピアノ:中島剛

人数はTwitterによれば総勢138名(単独ステージメンバーから絞ってる)。例年より人数少ないけど,それでもすごい迫力で,ベース系のユニゾンなど発声が揃った艷やかな声がゾクゾクする美しさだった。ダイナミックスの幅も広く合同として楽しめたが,正直この組曲はこの人数で歌うものなのかなあ,というのが疑問。学生の皆さんはどんな思いで選曲されたのだろうか。


アンコール

荻久保和明さんの男声合唱曲「季節へのまなざし」から「ゆめみる」を。これも重厚でした。


ステージストーム

慶応 Jaakko Mäntyjärviの「偽ヨイク」。短縮版みたい。動きにくくてお気の毒。

同志社 Set Down Servant ソロが(ソロも)なかなか聴かせた。

関西学院 U Boj 関学伝承版が嬉しい。上手いわ,やっぱり。

早稲田 斎太郎節 迫力とまとまりが同居しているのがすごい。


 聴き応えある演奏会をありがとうございました。休憩が計35分あったとはいえ,3時間45分ぐらいの長丁場。皆さんお疲れ様でした。次回は2020年6月28日(日)兵庫県立芸術文化センターにて。ダイアリーに書いとかなくっちゃ。

以上

日本男声合唱史研究室

日本における男声合唱史の研究 Study on male chorus history in Japan 主として明治期から1980年頃までの,日本の男声合唱について資料調査したことを中心にアップしていく予定です。いわば,私家版の「日本男声合唱史」を作る試みです。 タイトルは思い切り気張ってみました(笑)。 2024年4月15日から「無料プラン」の仕様が変わるため,構成を組み替えました。

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